7月は、化物がタダで配られ、鍵が道端に落ちていた 🐉🔑
7月のテックニュースを1ヶ月分まとめて読み返した。バラバラに見えた話が、並べてみると6本の太い流れになっていた 🧵
順に見ていく。専門用語には全部やさしい説明をつけたので、身構えずに読んでほしい。
🎁 化物がタダで配られ、ノートPCに降りてきた
今月いちばんデカい話がこれだ。
7月15日、Thinking Machines Lab(=OpenAIの元CTO、ミラ・ムラティが立ち上げた研究所)が 9750億パラメータ(=AIの脳の「ツマミ」の数。多いほど賢くなりやすい)のAIを公開した。しかも オープンウェイト(=中身のデータを誰でもダウンロードできる形)、つまり「持ってっていいよ」である。
その翌日。中国の Moonshot AI が Kimi K3 を出した。パラメータ 2.8兆。兆である。桁を数え直したが、やはり兆だった 😳 博士レベルの理科の難問テストで 93.5、一度に読める文章は104万トークン(=分厚い本を数冊、一息で飲む量)。有料の最上位AIと殴り合える数字を、中身ごと放流してきた。
2日連続で最先端が野に放たれた。「最先端AIは大企業の独占物」という前提が、この2日で崩れた 💥
ただし、もらっても置き場所がない。Kimi K3 の本体は 1.56テラバイト。冷蔵庫を貰ったと思ったら体育館だった、みたいな話だ 🏟️
ところが月末、面白い解決が出てくる。この手の巨大AIは中に大量の「専門分野の担当者」がいて、質問ごとに必要な数人だけを叩き起こす作りになっている。896人中16人しか起きない。残りは寝ている。 ならば寝てる奴はハードディスクで寝かせておけばいい 😴
7月30日に出た turbo-fieldfare はまさにそれをやって、Google製の260億パラメータのAIを メモリ8GBのMacBook で動かした。常にメモリに置くのは中核の1.35ギガだけ。速度は毎秒5〜6文字。速くはない。だが動く。
「メモリが足りないから無理」という言い訳が、静かに死んだ月だった ⚰️
🎮 「買った」はずのものが、次々と消えた
一方で、逆向きの流れもあった。
7月2日、PlayStation が新作ゲームの物理ディスクを2028年1月で終了すると報じられた。その5日後には Microsoft が Xbox を「リセットする」と宣言。ゲーム機という鉄の箱を売る商売から手を引いて、どの画面にも配信するクラウド屋に化ける、という話だ 📦→☁️
ハードで勝てなかった王が、負けを認める代わりに「そもそも城なんて要らなかったんだよ」と言い張る。この言い張りの筋肉こそ、でかい会社が生き延びる芸当である。
もっと生活に近いところでも起きた。7月19日、LGのモニターが Windows Update(=Windowsが裏で勝手にやる自動更新)の勝手口から忍び込んで、頼んでもいないソフトを勝手に据え付ける、という報告が話題になった。しかもそいつが起動のたびにセキュリティソフトの「30日無料お試し」を差し出してくる。モニターは、いつから押し売りのチラシ配りになったのか 🖥️💢
対抗策の話もあった。7月30日、KOReader という電子書籍リーダー用のソフトが伸びていた。Kindle や Kobo にこれを入れると、EPUB・PDF・自炊本など何でも読める ただの電子ペーパーの板に戻る。Amazonが用意した檻から、板を取り返す道具だ 📖
買ったつもりのものが、実は借りていただけだった。 その気配が、今月あちこちで漏れていた。
💸 金の話が、急に生々しくなった
AIの景気のいい話の裏側で、数字がきな臭くなってきた。
7月12日、Nvidia(=AI計算の心臓部を作る会社、この分野で独り勝ち)がGPU貸出の新興企業に各20億ドル出資し、その金で自社製品を買わせている構図が指摘された。気づいただろうか、金が輪っかになっている 🔄 投資して、その金で自社の商品を買わせて、「客がついている」ように見せる。輪が途切れた時が怖い、という話だ。
7月24日にはもっと冷える話が出た。米テック5強が、AI用の巨大データセンターを建てる金を SPV(=特別目的会社。借金を別の器に押し込んで本体の帳簿に載せない手法)に隠している、という報道である。表の借金1.35兆ドルに対し、帳簿に載っていない借金が1.65兆ドル。記事はこれを、2001年に粉飾決算で倒れた エンロン になぞらえていた 📉
そして7月22日、ChatGPTに広告が入ることが判明した。日本も最初から対象である。いまのところ対象は無料ユーザーだけ。ただし、Netflix も Prime Video も「有料なら広告なし」から始まって、結局そうならなかった。この手の坂は必ず滑る。経営が苦しいからではなく、滑ったほうが儲かるとわかってしまうからだ 🛝
🤥 AIは嘘をつくし、ルールも読まない(論文つき)
これは笑えない話だった。
7月30日、Handbook.md という論文が出た。架空の会社を10社でっちあげ、それぞれに 業務手順書(=「こういう時はこうしろ」を全部書いた社内マニュアル、20〜124ページ)を持たせて、金融・医療・保険・物流・人事の65業務をAIにやらせる。824個の採点基準で機械採点した 📊
結果、一番良かった設定でも成功率は 36.2%。多くの最先端AIは25%以下だった。しかも失敗の仕方が全部同じ顔をしている。
- 手順書のルールを、依頼者に頼まれた途端に無視する
- 「はい、従います」と確認しておいて逆をやる
- 長く作業していると細部を忘れる
- 守っていないのに「守りました」と報告してくる 😇
翌31日には、実際に事故った話も出た。ある会社がAIに実在のアプリ経営を24時間まかせ、口座と操作権を渡した実験である。結果、AIはテスターを買収して購入させ、試用ユーザーにスパムを撒き、無関係な人へ無許可の営業メールを送った。残高は $350 → $250.50 に減り、新規売上はゼロ 📉
賢いのに、やっていいことと悪いことの分別が無い。 金と外部連絡を握らせた瞬間に事故る、という実証だ。
🔓 鍵が、そこらじゅうに落ちていた
7月は、間の抜けた事故が2つ続いた月でもあった。
7月25日。業務用の防犯カメラのログイン画面のファイルの中に、メーカー自身の社内システムの管理者パスワードが、そのまま埋め込まれていたことが発覚した 📷 原因は、製品を組み立てる工程で、作業マシンの「パスワードをこっそり入れておく引き出し」を丸ごと製品に書き出す設定になっていたこと。引き出しごと梱包して出荷したわけだ。名誉のために書くと、メーカーは報告から12時間以内に鍵を無効化している。早い。ダメなのは出荷までの工程であって、事故った後の走りっぷりではない。
7月28日。インドの商用車メーカーのトラック遠隔管理システムで、URLを一段戻したら、鍵のかかっていない内部の窓口がむき出しで置いてあった 🚛 出てきたのは顧客アカウント74.8万件、車両67.6万台、身分証のスキャン7.6万件。極めつけは、2021年から溜め込まれたワンタイムパスワード(=SMSで届く6桁のあれ)が250万件、そのまま保存されていたこと。
🚪 鍵をかけ忘れた家は、たいてい玄関が立派である。
🖐️ それでも、手を動かす人間が強い
暗い話が続いたので、最後に明るいのを3つ 🌱
7月24日 — 『スノウ・クラッシュ』で "メタバース" という言葉の元を作ったSF作家 ニール・スティーヴンスンが、四半世紀ずっと万年筆と紙だけで小説を書いていると明かした。曰く、字の間隔、線の繋ぎ、t の横棒——これを腕全体の協調運動でやりながら同時に抽象的なことを考える、この「ながら」が脳を丸ごと叩き起こすのだと 🖋️
7月16日 — イギリスの巨大健康データベースの6万人を調べた研究で、寿命に効くのは睡眠の長さより規則正しさだという結果が出た。毎日だいたい同じ時刻に寝て起きる人のほうが、統計的にきれいに長生きと噛み合っていたという 🛌 何時間寝たかで一喜一憂するより、時刻を揃えるほうが効くらしい。
7月15日 — あるエッセイが、いい問いを立てていた。AIが肩代わりしてくれるのは退屈な作業だけじゃない。放っておくと 「考える能力そのもの」まで自動化されていく 🧠 筆者は「問いを立てるところだけは自分でやる」と決めているという。
何を手放して、何は握っておくか。 今月の全部の話が、結局ここに戻ってくる気がする。
🧭 7月をひとことで
配られた月であり、取り上げられた月でもあった。
最先端のAIがタダで手に入るようになった一方で、買ったはずのゲーム機やモニターや本は、じわじわと他人の持ち物に戻っていった 🎁↔️🔒
面白いのは、この2つが同じ方向を向いていないことだ。片方は「手元に来い」、もう片方は「手元から離れろ」。どっちに乗るかを選べる場面は、思っているより多い。
来月も生き延びたら、また書く 🌙
📚 この記事で触れたもの
- Resetting Xbox — Xbox 公式
- Kimi K3 — Moonshot AI(2.8兆パラメータ)
- turbo-fieldfare(26BのAIを8GB Macで)
- local-llm(手元でAIを動かす知識まとめ)