📊 大量保有報告書は 1 日に何件出るのか — EDINET を 1 年・15,034 通ぶん数えた
【🙋 免責事項】この記事を書いているのは、大量保有報告書をメールで届けるサービス StakeOut を作った本人である。数字はそのサービスが取り込んだデータから出しているので、手前味噌の入る余地はある。ただし数字は数字なので、そこは信用してもらっていい。投資勧誘でも投資助言でもない。
上場企業の株(正確には新株予約権なども含む「株券等」)を 5% を超えて持つと、金融庁の EDINET に「大量保有報告書」を出さなければならない。いわゆる 5% ルール だ。アクティビストが動いた、親会社が子会社化した、創業者が売った——そういうニュースの一次情報がここに出る。
で、それは 1 日に何件出るのか。
調べても出てこなかった。EDINET には検索画面はあるが集計は無い。証券会社の解説記事は制度の説明ばかりで件数を書いていない。仕方がないので 1 年ぶん全部取り込んで数えた。
対象は 2025 年 9 月 2 日〜2026 年 9 月 15 日の 251 営業日・15,034 通。EDINET API v2 で書類種別「大量保有報告書」(新規と変更の両方)を毎日取り込み、XBRL の CSV から保有者・比率・根拠条文を読んでいる。訂正報告書は含んでいない。
🎯 結論から
| 実測 | |
|---|---|
| 📬 1 日に出る報告書 | 中央値 43 通(平均 60 通) |
| 📈 いちばん多かった日 | 454 通(2025-09-19・金) |
| 🆕 うち新規(初めて 5% を超えた) | 1 日 7 件(中央値) |
| ⚖️ うち「経営に関わりうる」新規 | 1 日 5 件(中央値) |
| 🤝 新規のうち「単独では全員 5% 未満、合算で 5% 超」 | 34% |
| 🔁 変更報告書の割合 | 83%。しかも過半数が「減らした」報告 |
「1 日 40 件くらい、ただし当たり日は 10 倍」というのが肌感覚としての答えだ。
🤔 そもそも大量保有報告書とは
上場企業の株券等(=株式のほか、新株予約権や新株予約権付社債なども含む)を、共同保有者のぶんを合算して 発行済みの 5% を超えて持った 投資家が、5 営業日以内に金融庁へ出す書類。EDINET(=金融庁が運営する、有価証券報告書などを電子提出・閲覧するシステム)で誰でも読める。
その後、保有比率が 1% 以上動くたびに「変更報告書」を出す。比率が動かなくても、保有目的や共同保有者、重要な契約が変わったときは出す。5% 以下になったときも出す(出して初めて義務が消える)。
つまり大量保有報告書を毎日見ていると、誰が・どの会社の株を・何 % 持っていて・増やしているか減らしているかがかなり分かる(提出まで最大 5 営業日の遅れはある)。大株主の一覧は半年に 1 回(有価証券報告書と半期報告書)しか公開されないが、これは日次で動く。
📬 1 日に何件出るか
251 営業日の分布はこうだった。
| 1 日の通数 | 日数 | 割合 |
|---|---|---|
| 20 通以下 | 5 日 | 2% |
| 21〜40 通 | 108 日 | 43% |
| 41〜60 通 | 60 日 | 24% |
| 61〜100 通 | 37 日 | 15% |
| 101〜200 通 | 40 日 | 16% |
| 200 通超 | 1 日 | 0.4% |
半分近くが 21〜40 通に収まる一方で、6 日に 1 日は 100 通を超える。平均(60 通)が中央値(43 通)より大きいのは、この当たり日が引っ張っているから。
曜日別に見ると 月曜と金曜が重い。中央値は月 46・火 39・水 41・木 43・金 45 で大差ないが、平均は月 66・金 78 に対して火水木は 48〜56。100 通超の 41 日のうち、月曜と金曜で 28 日を占めた。
月別では 6 月(77 通/日)と 9 月(83 通/日)が突出して、7〜8 月と 10 月は 50 通/日前後。6 月は株主総会の時期。9 月は次に書く 3 日(454・121・125 通)が引っ張っていて、それを除くと 55 通/日に落ち着く。
💥 454 通の日に何が起きていたか
2025 年 9 月 19 日(金)。1 年でただ 1 日の 200 通超えで、2 位(193 通)の 2 倍以上。
中身を開けると、368 通が三井住友トラスト・グループだった。同じ月の 1 日に、グループの日興アセットマネジメントが「アモーヴァ・アセットマネジメント」に社名を変えている。その直後に、アモーヴァを共同保有者に含む形で出し直した報告書が 368 通(うち変更報告書が 364 通、全部が特例報告)。つまり 1 グループの社名変更で、持っている銘柄ぶんの報告書が一斉に出た。
同じ月の 26 日と 29 日には、光通信が 2 日で 183 通出している。光通信は 5% 超で持っている上場株が多いことで知られていて、1 年間で 222 銘柄・577 通。この 2 日はそのうち 158 通が「増やした」報告だった。
当たり日は、たいてい 1 社か 1 グループが作っている。 ニュースになる出来事(アクティビストが一斉に動いた等)で件数が跳ねることはあまりない。
🆕 新規は 1 日 7 件。うち「経営に関わりうる」のは 5 件
15,034 通のうち、初めて 5% を超えた「新規」は 2,530 通(17%)。残りの 83% は変更報告書だ。
新規は 1 日の中央値で 7 件、平均 10 件、最多は 48 件。新規が 0 件の日は 1 年で 5 日しかなかった。
ここからが仕分けの話になる。大量保有報告書には 根拠条文 が書いてあって、大きく 2 種類に分かれる。
- ⚖️ 法第 27 条の 23(一般報告) — 誰でも出せる通常の報告
- 🏦 法第 27 条の 26(特例報告) — 証券会社・銀行・運用会社などの金融機関が、「重要提案行為等(=役員の選解任や事業譲渡などを提案すること)を保有目的としない」などの要件を満たすときに使える、提出頻度と記載が簡素化された報告
つまり 特例報告を使っている時点で、少なくとも制度上は「重要提案行為等を保有目的としない」という要件を満たすと申告している。運用会社が指数連動で機械的に持ったぶんはここに来る。純投資であることを保証する制度ではないが、一般報告より経営関与の色は薄いと読んでいい。
新規 2,530 通のうち特例が 46%、一般が 54%(1,360 通。1 日の中央値 5 件、平均 5.4 件)。「経営に関わる可能性を広めに拾う入口」として一般報告の新規に絞ると、1 日 60 通が 5 件 になる。
ただし 一般報告 = アクティビストではない。特例報告を使えない事業会社・個人・創業者・親会社・TOB 後の買付者も全部ここに来る。「経営に関わりうる」までしか言えない。
⚠️ ここで 保有目的の文面で仕分けようとすると失敗する。実データには「純投資及び発行者の企業価値向上を目的として重要提案行為等を行うこと」のように相反する語が同居する文面が普通にある。「純投資」と書いてあるアクティビストも、「重要提案行為」と書いてある純投資家もいる。根拠条文は法律上の要件なので、こちらの方が確かだ。
🤝 新規の 3 分の 1 は「1 人では 5% に届いていない」
これは数えるまで知らなかった。
大量保有報告書は、共同保有者(=共同で株を売買したり議決権を行使したりする合意がある相手。50% 超を握る親会社と子会社のように、合意がなくても共同保有者とみなされる関係もある)がいれば、本人と共同保有者の合算で 5% を判定する。だから 1 通の報告書に複数の保有者が並ぶ。
| 1 通あたりの保有者数 | 通数 |
|---|---|
| 1 名 | 6,392 |
| 2 名 | 3,823 |
| 3 名 | 2,941 |
| 4 名 | 1,028 |
| 5 名以上 | 850(最大 14 名) |
57% の報告書に共同保有者がいる。 そして新規 2,530 通のうち 861 通(34%)は、個別の比率が全員 5% 未満で、合計して初めて 5% を超えていた。
たとえば「三井住友信託銀行 1.30% + トラスト AM 2.34% + アモーヴァ 1.45% = 5.09%」のような形だ。
これは集計する側にとって罠になる。保有者ごとの行で「5% 以上」と絞ると、保有割合の合計が 12% の報告書(4% × 3 名)が丸ごと落ちる。報告書は共同保有を含めた単位で出ているので、判定も合計でやらないと、見せている数字と絞っている数字が食い違う。
🏢 誰が出しているのか
1 年間の提出者(共同保有者を除く、報告書の筆頭)は 2,786 者。ただし その 53% は 1 年で 1 回しか出していない。一方で上位はこうなる。
| 提出者 | 通数 | 銘柄数 |
|---|---|---|
| 🥇 野村證券 | 1,394 | 414 |
| 🥈 光通信 | 577 | 222 |
| 🥉 フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ | 565 | — |
| 三井住友トラスト・アセットマネジメント | 546 | — |
| エボ・ファンド | 467 | — |
| 三井住友信託銀行 | 350 | — |
| みずほ銀行 | 251 | — |
| ブラックロック・ジャパン | 232 | — |
野村證券だけで全体の 9%。証券業務(引受・貸株)で機械的に 5% をまたぐぶんが大半で、1,394 通のうち 1,198 通が特例報告だった。
一方、「一般報告の新規」に絞って数え直すと顔ぶれが変わる。
| 提出者 | 一般報告の新規 |
|---|---|
| 光通信 | 34 |
| FMR(フィデリティ) | 27 |
| エボ・ファンド | 26 |
| オアシス・マネジメント | 25 |
| ロング・コリドー・アセット・マネジメント | 15 |
| シティインデックスイレブンス | 14 |
| ゼナー・アセット・マネジメント | 11 |
こちらは アクティビストとして知られる投資家や、新株予約権を引き受けるファンドが目立つ一覧になる。オアシス、シティインデックス(=村上ファンド系)、ロング・コリドー、エボ・ファンド。ニュースで見る名前が並ぶ。もちろん一覧に載ること自体は、その投資家の評価でも、銘柄の評価でもない。
新規・一般の 22% は提出者が個人名だった。創業者一族や、上場したばかりの会社の経営陣が、上場と同時に出すぶんが含まれる。中央値の比率は法人 8.5% に対して個人 10.3%。
📈 5% ルールなのに、50% 超えが 138 件
「5% ルール」という名前から 5〜10% の話だと思いがちだが、新規 2,530 通の比率分布はこう。
| 合計比率 | 通数 |
|---|---|
| 5〜10% | 1,935(76%) |
| 10〜20% | 246 |
| 20〜33% | 124 |
| 33〜50% | 87 |
| 50% 以上 | 138 |
50% 以上の新規を個別に見ると、TOB(=株式公開買付)や子会社化の完了が目立つ。NTT ドコモ → CARTA HOLDINGS 91%、インフロニア → 三井住友建設 78%、センコーグループ → ベリテ 50%。もう 1 つの塊は 上場直後に親会社や創業者が出すぶんで、ソニーグループ → ソニーフィナンシャルグループ 100% のような形。50% 以上の新規だけでも、週に 2〜3 件出ていることになる。
🔁 変更報告書の中身は「減らした」が過半数
全体の 83% を占める変更報告書 12,504 通。前回比が読めた 12,460 通の内訳は——
- 📉 減らした 55%
- 📈 増やした 37%
- ➡️ 横ばい 9%(比率は同じで、共同保有者の入れ替えなどで出し直したもの)
そして 16% は 5% を割った報告、つまり撤退だ。1 年で 2,032 通。「誰が入ったか」の 2,530 通に対して、「誰が出たか」が 2,032 通。ほぼ同じ規模で出入りしている。
変動幅で見ると、1 ポイント以上動いたものが 60%、3 ポイント以上は 13%。制度上 1% 動くと報告義務が生じるので、当然といえば当然だが、裏を返せば「3 ポイント以上」で絞ると変更報告書は 7〜8 分の 1 になる。
🙋 これがあなたに何の関係があるのか
📱 個人投資家なら — 「1 日 60 通を全部読む」のは無理で、実際に誰もやっていない。でも一般報告の新規だけなら 1 日 5 件。それは読める量だ。ニュース本文では省かれがちな一次情報(誰が・何 %・共同保有者は誰か)が、ここで確認できる。
🏢 上場企業の IR 担当なら — 自社の名前が出るのは、誰かが 5% を超えた日と、1% 動いた日。半年に 1 回の大株主一覧より先に、出入りがここで分かる。共同保有の合計で判定されるので、単独で 5% 未満の相手でも報告書に載ることがある。
💻 エンジニアなら — EDINET API v2 は無料で商用利用できる(公共データ利用規約 PDL1.0。出典表示が要る)。書類は ZIP、中身は UTF-16LE のタブ区切り CSV、比率は小数(0.0845 = 8.45%)。1 日 454 通の日でも、Cloudflare Workers で 55 秒だった。ライブラリは何も使っていない。
🔭 StakeOut のこと(控えめに)
この数字を出す過程で作ったのが StakeOut で、やっていることは上の話そのままだ。
- 平日 17:30(EDINET の受付終了の 15 分後)に、その日の報告書を根拠条文で仕分けて 1 通のメールにする
- 新規の一般報告を上段に、特例報告は銘柄名だけ下段に
- 無料で使える。変更報告書(経過)まで見たい人だけ有料
1 日 60 通を 1 日 5 件にする、という話だ。作った理由は、自分が毎日読みたかったから。
📎 方法と出典
- 期間: 2025-09-02〜2026-09-15(251 営業日)。年末年始とゴールデンウィークは EDINET の受付が無いので抜けている
- 取得: EDINET API v2
documents.jsonの docTypeCode 350(大量保有報告書・変更報告書)。訂正報告書(360)は含まない - 解析: 書類 ZIP 内の XBRL CSV から
HoldingRatioOfShareCertificatesEtc(保有比率)、ClauseOfStipulationCoverPage(根拠条文)、共同保有者のコンテキストを読んだ - 「新規」は書類の表題に「変更」を含まないもの。一度 5% 以下になってから再び超えた場合も「新規」に数えている。「特例報告」は根拠条文に「27条の26」を含むもの
- 通数は報告書(docID)単位。共同保有者ごとの行で数えると 32,795 行になる
- 「提出者」は報告書の筆頭保有者(共同保有者の 1 人目)
出典: EDINET 閲覧(提出)サイト(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/)、PDL1.0(https://www.digital.go.jp/resources/open_data/public_data_license_v1.0)。EDINET の情報をもとに infoHiroki が作成しました。